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東京地方裁判所 昭和44年(刑わ)2443号 判決 1971年2月18日

主文

1  被告人水野勝吉を懲役一五日に処する。

未決勾留日数中一五日を右刑に算入する。

2  被告人竹内保広を懲役六月に処する。但しこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

3  訴訟費用のうち証人杉山広、同田中優、同瀬口英雄に支給した分は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(犯罪事実)

第一、被告人両名は、昭和四四年四月三〇日午後一一時三五分ころ、東京都足立区千住旭町四五番地先路上で、警視庁千住警察署北千住駅前東口派出所勤務の警視庁巡査杉山広が、被告人に対し、酒に酔い自動車を運転した疑いで職務質問をし右派出所に任意同行を求めた際、右捜査を免れる目的で共謀の上、交々同巡査の胸元や襟首を掴んでゆさぶり、手挙で同巡査の胸部、顔面などを殴打し、同巡査の大腿部を足蹴にするなどの暴行を加え、以て同巡査の右職務の執行を妨害した。

第二、被告人水野勝吉は、前記日時ころ、前記場所で、被告人らの前記暴行を制止しようとした警視庁千住警察署勤務の警視庁巡査瀬口英雄に対し、同巡査の胸元を掴んで前後にゆさぶり、同巡査の大腿部を足蹴にするなどの暴行を加え、以て同巡査の右職務の執行を妨害した。

(証拠の標目等)<略>

(被告人水野の前科)<略>

(法律の適用と量刑)

1  事情被告人両名の各所為はいずれも刑法九五条一項に該当する(各懲役刑選択)。(第一の事実につき更に刑法六〇条)。被告人水野には前科があるので刑法五六条、五七条により各罪につき再犯の加重をし右は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条、一〇条により杉山巡査に関する公務執行妨害の罪の刑に併合罪の加重を行う。被告人水野については後記事情が認められるので刑法六六条、七一条、六八条三号、一二条一四条後段により酌量減軽する。以上両被告人につき、所定刑期の範囲内でそれぞれ情状により主文の刑期を定め、被告人水野については刑法二一条により未決勾留日数を主文のとおり本刑に算入し、被告人竹内については、刑法二五条一項一号により主文のとおりその刑の執行を猶予する。

2  被告人水野に関する量刑の特別事情は次のとおりである。

(一)  被告人水野は本件で現行犯人として逮捕され千住警察署に拘束されていたが、逮捕当夜署内で暴れ、暴言するなどして当直の看守係を手こずらせ、かつ、同夜拘束されていた他の入房者の安眠を妨げる行為があつた。翌五月一日午前七時四〇分ころ、被告人は右当夜の乱暴に対する懲罰として、右警察署看守係角屋敷正男らの警察官により、後手錠、足手錠をかけその両手錠を背面で繩で結び逆のえび型に緊縛されて俯向けにころがされたまま、同日少なくとも午前九時三〇分ころまで放置され、この間背中を踏みつけるなどの暴行をうけ、このため、右第八、七、六肋骨骨折右前腕手関節部両下腿足関節部挫傷の傷害を負うに至つたものである。右は<証拠>により明白である。証人角屋敷らは右の処置は被告人が用便時に担当看守に頭突きするなどして暴れたのでこれを規制するため止むを得ずとつた措置であると述べている。けれども、右処置は被疑者留置規則二〇条にいう、暴行等防止のため必要な措置と認められない。右処置当時被告人が暴れたことはあると思われるが、それは右の処置をとろうとする警察官らに抵抗したにすぎず、この時被告人が暴れる前に警察官の方で前夜の被告人の暴行に対する懲罰にとりかかつたと認められる。本件の罪名は公務執行妨害であつて、国の警察権行使に対する妨害が被告人処罰の根拠となつている。その国の警察権の担当者が、その事件で拘束されている被疑者である被告人に対し前記のような不法行為をなしたということは、刑政の根本である衡平に反する。被告人に対する加害者の訴追や被告人の受けた傷害治療費の求償の途が別にあるとしても、判示程度の公務執行妨害の捜査手続中に前記程度の傷害が加えられたということは、本件刑事手続自体においても少くとも量刑上大きく考慮してよい事由である。

弁護人の主張する公訴棄却という方法は、その根拠として、謙疑のない犯罪だからという限り採用の限りではない。一般に公訴棄却という最後の途が残される余地が全くないというのではないけれども、一八日の未決勾留がある本件においては、裁判官立法を敢てするまでもなく、被告人の犯罪を不問に附することをしないでしかも衡平感を維持する方途が量刑上の措置により可能である。

これが被告人水野に対する量刑に当り酌量減軽をした理由の一つである。

(二)  被告人水野は従来のやくざな生活態度を一変して正業につき、勤労にはげんでいる。被告人水野にとつて、現在が人生における極めて重要な転機であることを認めなくてはならない。ここで同人をくじけさせる虞れのある措置は刑事政策上好ましくないと思われる。

これが酌量減軽を敢てしたもう一つの理由である。

3  訴訟費用の負担について、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用して主文のとおりに定める。(岡垣勲)

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